マドンナ・ブルーの微笑み Vol.1 泥棒列車の思い出☆

～トルコ航空の窓から望む空～


おめでとうございます！当選されました！

ニューヨーク行きが決まった頃、ある一通の当選ハガキが届いた。

～南イタリア世界遺産の都市を巡る６日間の旅～

そのハガキを手にした時は、

また良くある詐欺まがいの広告か？

と疑いの目を持っていたけれど、よくよく記憶を辿って見ると

大手旅行代理店の年末プレゼント企画に

冗談半分で応募していた事を思い出した。

内容は航空券（サーチャージ込）＋ホテル＆三食食事付きで10万円 ！

激安旅行企画で、抽選によりどうやら当たったようだった。

ハッキリ言ってくじ運は低い。

鑑定の仕事をしていると、くじ運も高そうに良く言われるが、

反比例して『くじ運』に関しては嬉しい思い出はあまり無い。

なので今回の様な『当選』と言う言葉は

直ぐに理解出来るものでは無かった。

しかしイタリアは今まで数回、放浪をした事があるけれど、

南イタリアはまだ未開の地だったのでこのチャンスに乗っかるしかない！

直ぐに旅行会社へ連絡をして手帳のスケジュールと照らし合わせた。

出発が12月20日・・戻りが26日。

何かと忙しない時期ではあるけれど、クリスマスをイタリアで過ごせるのは魅力的。

勝手に何かのご褒美だと繋ぎ合わせ、行く事に決めた

海外でもイタリアは特に好きな国。

そして前世の縁も感じている土地だ。

縁のある国の放浪は素晴らしい思い出しかない・・っと言いたい所だが、

20歳で初めてヨーロッパを放浪した時、イタリアでとんでもない目に遭った。

まだ当時、バリバリの共産圏・ハンガリーから

イタリア・ミラノ経由でスペインのバルセロナへ向かっている途中、

寝台列車の中で陽気なイタリア人のグループと隣り合わせだった。

emyは友人たち４人と一部屋・・

コンパートメントと呼ばれる椅子がそのままスライドして寝られるように

なっている寝台車だ。

初めての海外旅行だったので緊張の連続で疲れもピークに達していたのだろう・・

通路で陽気に騒いでいるイタリア人にワインを勧められ、

ついつい飲んでしまい深い眠りに陥ってしまった。

きっと陽気な感じに緊張感がほぐれ、

勝手な親近感が湧いてしまったのかもしれない。

それからどれほどの時間が経ったであろうか？

すきま風のピューピューと言う音で目が覚めた。

外の景色はちょうど、水の都、ベニスの近くを走っている。

目の前に広がる海が朝日でキラキラと輝いていた。

昨日、勧められたワインのせいか頭はぼ～っとしている。

隣を見ると友人たちは思いっきり深い眠りに陥っているようだった。

しばらく状況が把握出来ていなかったけれど、

ある一つの異変に気がついた。

枕にしていたカバンが無い！

そのカバンの中にはパスポート・ユーレイルパス・トラベラーズチェック・・

貴重品全てが入っていた。

一瞬、頭の中が真っ白になったけれど、慌てて寝ていた友人たちを叩き起こした。

『ない！ない！カバンがない！！！』

しどろもどろの言葉で友人たちも慌てて部屋の中を探しまわった。

其の時、脳裏にドアのすきま風の意味がやっと繋がった。

一番手前に寝ていたemyのカバンを誰かが隙間から引いて盗んだのだ。

そしてワインを勧めた陽気なイタリア人が次に頭に浮かんだ。

あまりのショックで言葉を失ったけれど、

自分がとるべき行動を一生懸命考えて、とりあえず列車の車掌さんの所へ

駆けつけた。

その頃、英語もほとんど喋る事が出来なかったが思わず叫んでしまった。

『stolen my bag ！！』
��バッグが盗まれた！）

それを聞いた車掌さんは、別の車掌さんを呼んで来て

emyの訴えを注意深く聞いてくれた。

また車掌さんの英語も理解出来ないけれど、

所々、ニュアンスを聞き取る事が出来る。

『バルセロナ行きは泥棒が多いんだよ。
奴らは金品を奪った後、カバンを外に捨てるので諦めた方が良い。
でも列車の中を探してあげるから待っていなさい。』

あまりのショックに呆然としていると初老の日本人の女性に声をかけられた。

『どうしたの？私は日本人だから話が聞けるわよ』

盗まれた事をざっと説明するとその初老の女性は色々とアドバイスをくれた。

『バルセロナに着いたらまず日本大使館へ助けを求めなさい。
そして警察へ行って被害届けももらいなさいね。
それさえあれば、銀行でトラベラーズチェックの再発行もしてもらえるわ』

色々アドバイスをくれる日本人女性に出会えただけでも

不幸中の幸い。

しかし、正直自分の身がどうなって行くのかは想像もつかなかった。

時計を見ると後、30分でバルセロナに到着してしまう・・。

列車の中を探してくれると言った車掌さんは戻って来ない。

到着まで後、10分・・。

絶望感に打ちひしがれているといきなり車掌さんがemyの前に来て

目の前に写真を突きつけた。

『これはあなた？』

モノクロのその写真は間違いなくemyの学生証だった。

ぶわっと涙が出て来て『そうです！私です！！』

と答えると後に居た別の車掌さんの手にはemyのバッグを持っていた。

『あなたは運が良かった。
カバンは外に投げられないでトイレの隅に置いてありました。』

慌ててカバンの中身を確認すると

盗まれていたのはトラベラーズチェックと帰りの航空券。

再発行可能なものばかりだった。

パスポートも盗まれていなかった事が一番の安心材料だった。

バルセロナ到着ギリギリのとんでもない経験・・。

でも何故だろう・・

こんな経験をしているのにイタリアと言う国を憎めない。

それどころかその後も様々な縁が繋がっている。

縁が深いからこそ、ここまで鮮烈な洗礼を受けさせられたのかもしれない。

next tomottow ・・